ヘルスケア

2024.05.05 17:30

心理学者が認める「精神疾患をリアル」に描写する有名映画

安井克至
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映画における依存症の表現は、薬物乱用と回復をしばしば誇張、歪曲して描写する。過剰摂取、犯罪、暴力行為といった劇的なシーンとともに、薬物依存が極端で扇情的なものであるとして描かれることもある。その種の映画は、依存症の最も極端な側面を強調しがちであり、薬物乱用につながる根本的原因を無視することが少なくない。回復も単純で直線的なプロセスとして描かれることが多く、依存症克服の複雑で時間のかかるプロセスはひどく軽視されることになる。

現実において、依存症はさまざまな要因の影響を受ける慢性的かつ再発性の疾患であることを研究が示している。そこには薬物への身体的依存だけでなく、常習行為を促す心理学的および行動的パターンも関わっている。依存症からの回復は、ほぼ必ず挫折と再発をともなう長い旅であり、継続的な支援と治療と献身が必要だ。

『ビューティフル・ボーイ』を際立たせているのは、依存症の人間的な側面に焦点を当てている点だ。賛美やセンセーショナルな表現を用いることなく苦闘と挫折に光を当てている。薬物依存とそれが家族関係に与える影響をリアルに心をこめて描写していることが多くの人々の共感を呼んだ。映画は、素朴で心のこもったストーリー展開を通じて、病気からの回復の真の姿と治癒に不可欠な支援体制、そして父と子の間の揺るぎない絆を描くことに成功している。

3. 『マンチェスター・バイ・ザ・シー(Manchester By The Sea)』2016年

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』は、悲しみと喪失感と家族関係を探求する説得力あるドラマだ。映画は、不可解な個人的悲劇や未解決の悲嘆の重荷に立ち向かう男を描く。そして新たな予期せぬ悲劇によって、彼は責任感から辛い過去や自らの孤立を招く出来事と直面することになる。

ドラマ化された悲嘆の表現は、誇張された感情や劇的なシーンを通じてその体験を伝え、悲しみと怒りと高められたカタルシスを強調しがちだ。そのような描写では、悲嘆が『悲嘆の五段階』にしたがって直線的に進むように描かれる傾向があり、悲嘆には明瞭な時間軸があり、患者は最終的にすっきりと解決方法を見つけることを示唆する。これは、悲しみの複雑さと予測不能性を極度に最小化し、究極的にはストーリーのエモーショナルアーク(感情曲線)を表すための道具へと貶めるものだ。

しかし、悲嘆が極めて個人的で直線的ではない体験であることは研究が証明している。それは単なる段階的な進行ではなく、人によって異なる感情と反応の複雑な絡み合いだ。そこは、満ち引きするショック、不信、悲しみ、怒り、罪の意識、切望および孤立で満たされている。悲嘆は数年間続くこともあり、激しい感情の後に平穏な瞬間が訪れる期間を経験している人に、突然悲嘆が再浮上する例があることを多くの研究が示している。

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』が一線を画しているのは、その率直で現実的な悲嘆の描写だ。暗く困難で予期できない哀悼の側面から目を背けていない。深い喪失にともなう悲嘆や複雑な感情の誠実な描写は高い評価を得ている。心を動かす演技と繊細なストーリー展開によって、トラウマのもたらす多様な影響、永続的な家族の絆、そして受容と許容に向かう旅が表現されている。
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forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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